結論からいうと、債務整理に年齢の上限はありません。60歳でも70歳でも80歳でも手続きできますし、年金を受給している方でも借金を減らせます。
年金受給者が気になるのは、「債務整理をすると年金がもらえなくなるのでは?」という点です。国民年金や厚生年金などの公的年金は、債務整理をしても減額されません。一方で、個人年金や、年金が振り込まれる口座は、手続きによって影響が出ることがあります。
この記事では、年金の種類ごとの影響、年金受給者が気をつけたい注意点、年金収入で選べる手続きの目安を解説します。
債務整理が年金に与える影響の早見表
| 年金・財産の種類 | 債務整理による影響 |
|---|---|
| 公的年金(国民年金・厚生年金) | 減額されない。差押えも禁止されている |
| 企業年金・確定拠出年金(iDeCoなど) | 差押禁止財産のため、影響を受けない |
| 個人年金(保険会社の年金保険) | 財産として扱われる。自己破産では解約・処分の対象になることがある |
| 口座に振り込まれた年金 | 預貯金と同じ扱い。凍結や、自己破産での処分の対象になることがある |
| 年金担保貸付 | 債務整理をしても減額・免除されない |
年金受給者でも債務整理はできる
債務整理は、借金に困っている人の生活を立て直すための、国が認めた制度です。年齢や収入の種類による制限はありません。
任意整理や個人再生のように、返済を続ける手続きでは「継続的な収入」が必要です。年金は、この継続的な収入として認められます。また、自己破産は収入の有無にかかわらず利用できるため、年金受給者でも手続きできます。
債務整理では、年齢そのものよりも「今後の収入で返済できるか」が見られます。年金収入が続く見込みがあるなら、年齢を理由に手続きができないことはありません。
公的年金への影響|減額も差押えもされない
公的年金とは、国が運営する国民年金(基礎年金)と厚生年金のことです。老齢年金のほか、障害年金・遺族年金も含まれます。
- 老齢年金:一定の納付期間を満たし、受給開始年齢になると受け取れる年金
- 障害年金:病気やケガで障害認定を受けたときに受け取れる年金
- 遺族年金:生計を維持していた家族が亡くなったときに、遺族が受け取れる年金
公的年金は、国民年金法・厚生年金保険法で、受給権の差押えや担保にすることが禁止されています。債務整理をしても、年金が減額されたり、受け取れなくなったりすることはありません。自己破産をした場合も、これまでどおり受給できます。
税金や社会保険料を滞納している場合は、滞納処分として年金が差し押さえられる例外があります。これらの滞納は、債務整理をしても減額・免除されません。詳しくは「債務整理をしても滞納した税金を減額することはできない」をご覧ください。
個人年金への影響|自己破産では解約されることがある
個人年金とは、保険会社などと個人で契約し、保険料を積み立てて受け取る私的年金です。「個人年金保険」「年金保険」と呼ばれることもあります。
公的年金とは違い、個人年金の受給権には法律による保護がありません。預貯金などと同じ、個人の財産として扱われます。そのため、手続きによって影響が異なります。
| 任意整理 | 整理する借金を選べる。個人年金を解約する必要はない |
|---|---|
| 個人再生 | 解約の必要はないが、解約返戻金は財産として評価され、返済額(清算価値)に影響することがある |
| 自己破産 | 解約返戻金が20万円を超える場合は、解約して債権者への配当に充てられるのが一般的 |
個人年金の扱いは、解約返戻金の額や、受給が始まっているかどうかで変わります。契約している個人年金がある場合は、手続きを選ぶ前に弁護士へ伝えておきましょう。
確定拠出年金・企業年金は影響を受けない
私的年金でも、次のような年金は、公的年金と同じく差押禁止財産とされています。債務整理をしても、受給権や受給額に影響しません。
- 厚生年金基金
- 国民年金基金
- 確定給付企業年金(DB)
- 企業型確定拠出年金(企業型DC)
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
年金受取口座の注意点|凍結と預貯金の処分
法律で守られているのは、年金を「受け取る権利」です。すでに口座に振り込まれた年金は、預貯金と同じ扱いになります。そのため、次の2点に注意が必要です。
借入のある銀行の口座は凍結されることがある
年金の受取口座がある銀行やそのグループ会社から借入れをしていると、債務整理の開始を通知した時点で口座が凍結されるおそれがあります。凍結されると、年金が引き出せなくなるだけでなく、借金と預貯金が相殺されることもあります。
- 借入れのない銀行の口座に、年金の受取口座を変更しておく
- 任意整理なら、その銀行を整理の対象から外す
口座の変更は、弁護士に依頼する前に済ませておくのが安全です。順番や時期は、弁護士に相談して決めましょう。銀行の口座凍結については「債務整理をして銀行口座が凍結されるタイミングは?解除までの流れと対策」で詳しく解説しています。
自己破産では口座残高が処分されることがある
自己破産では、口座に残っている預貯金が一定額(目安は20万円)を超えると、処分されて債権者への配当に充てられることがあります。受け取った年金を貯めていた場合も同じです。
年金担保貸付は債務整理でも減らない
年金担保貸付とは、年金を受け取る権利を担保にお金を借りる公的な制度で、返済は年金から天引きされます。この制度は2022年3月末で申込みの受付が終了しており、現在は新たに借りることはできません。
すでに利用している場合、債務整理をしても減額・免除されません。任意整理の対象にはできず、個人再生をしても減額されず、自己破産をしても免責されないため、完済するまで年金からの天引きが続きます。
「年金を担保にお金を貸します」とうたう勧誘は違法です。年金証書や通帳を預けさせる業者には絶対に応じず、消費生活センターや弁護士に相談してください。
年金受給者はどの債務整理を選べばよいか
債務整理には、任意整理・個人再生・自己破産の3つの方法があります。年金受給者の場合は、「年金から生活費を引いた金額で、返済していけるか」が選択の分かれ目になります。
| 手続き | 向いている人 | 年金への影響 |
|---|---|---|
| 任意整理 | 将来利息をカットすれば、3〜5年で完済できる人 | 整理する借金を選べるため、年金口座の銀行を対象から外せる |
| 個人再生 | 借金を大きく減らせば、3年(最長5年)で返済できる人。住宅を残したい人 | 個人年金は返済額に影響することがある。口座凍結に注意 |
| 自己破産 | 年金収入では返済のめどが立たない人 | 公的年金は影響なし。個人年金・預貯金は処分されることがある |
任意整理
任意整理は、裁判所を通さず貸金業者と交渉して、将来利息のカットなどの和解を目指す手続きです。和解後の借金を3年程度で返済できるかどうかが目安になります。
たとえば借金が200万円なら、3年(36回)で返すには月5万円以上の返済が必要です。年金だけで生活している場合、生活費を引くと返済が難しいこともあります。
個人再生
個人再生は、裁判所を通して借金を大きく減額し、原則3年(最長5年)で分割返済する手続きです。借金総額に応じた最低弁済額まで減額でき、住宅ローン特則を使えば持ち家を手放さずに済みます。
年金収入は継続的な収入として認められますが、減額後の返済額を払い続けられる見込みが必要です。仕組みは「個人再生とは?制度の特徴や、住宅を手放さずに済む条件について」で解説しています。
自己破産
自己破産は、裁判所を通して借金の支払い義務を免除してもらう手続きです。借金の額が大きく、年金収入では返済のめどが立たない場合は、自己破産が現実的な選択肢になります。
代わりに、個人年金や一定額を超える預貯金、持ち家や車などの財産は処分されることがあります。生活保護を受けながら自己破産をする場合は、弁護士費用の負担を抑えられる仕組みもあります。詳しくは「自己破産した後に生活保護を受けているなら」をご覧ください。
相続人に借金を残さないために
相続では、預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継がれます。借金が相続人に残ると、家族に負担をかけることになります。
相続放棄は、死亡を知った日から3か月以内に行う必要があります。家族に借金を残したくない場合は、早めに専門家へ相談し、生前に債務整理をしておくのも一つの方法です。
関連記事:相続人の借金を知らずに遺産を相続してしまった人はどう対処すべきか
よくある質問
Q. 債務整理をすると、年金は減額されますか?
公的年金は減額されません。国民年金・厚生年金は、債務整理をしても受給額が変わらず、差押えも禁止されています。ただし、個人年金や口座に振り込まれた年金は、手続きによって影響が出ることがあります。
Q. 年金のみの収入でも、任意整理はできますか?
任意整理自体は可能です。ただし、和解後の借金を3年程度で返済できる金額であることが前提になります。返済が難しいほど借金が多い場合は、個人再生や自己破産のほうが現実的です。
Q. 年齢が高いと、個人再生の審査で不利になりますか?
個人再生では、年齢よりも今後の収入の見込みが重視されます。年金収入が継続して見込める場合は、年齢を理由に手続きができないことはありません。
Q. 年金受給者でも、弁護士費用の分割払いはできますか?
多くの法律事務所が分割払いに対応しています。年金の受取日に合わせた支払いプランを組める場合もあるため、相談時に収入の状況を伝えておきましょう。
Q. 高齢者が自己破産すると、家族に影響はありますか?
自己破産の対象は本人の債務だけで、家族に返済義務が及ぶことは原則ありません。ただし、家族が連帯保証人になっている借金は、その家族に請求がいきます。
Q. 年金担保貸付がある場合、債務整理はできませんか?
債務整理自体はできますが、年金担保貸付は減額・免除されません。ほかの借金だけを整理し、年金担保貸付は完済まで天引きが続く形になります。
まとめ
- 債務整理に年齢の上限はなく、年金受給者でも任意整理・個人再生・自己破産を利用できる
- 国民年金・厚生年金などの公的年金は、債務整理をしても減額されず、差押えも禁止されている
- 企業年金・確定拠出年金(iDeCoなど)も影響を受けない
- 個人年金は財産として扱われ、自己破産では解約返戻金が20万円を超えると処分されることがある
- 年金受取口座は、借入のある銀行だと凍結されるおそれがあるため、事前の対策が必要
- 年金担保貸付は、債務整理をしても減額・免除されない
どの手続きが向いているかは、借金の総額、年金の額、個人年金や預貯金の有無によって変わります。年金の扱いを間違えないためにも、債務整理の実績が豊富な弁護士に、早めに無料相談してみましょう。
