個人再生には小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類があります。
どちらも裁判所を通じて借金を大幅に減らし、原則3年で返済していく手続きですが、返済額の決まり方と債権者の同意が必要かどうかが大きく異なります。
結論から言うと、会社員や公務員でもほとんどの人は小規模個人再生を選びます。
この記事では、2つの手続きの違いを比較表で整理し、返済額の具体例や、どちらを選ぶべきかの判断基準まで解説します。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としています。個別の事情によって最適な手続きは異なりますので、実際の手続きは弁護士・司法書士にご相談ください。
結論:会社員でも小規模個人再生が基本
小規模個人再生と給与所得者等再生の違いをひとことで言うと、次のとおりです。
- 小規模個人再生:返済額が少なくなりやすい。ただし債権者の過半数が反対すると認可されない。
- 給与所得者等再生:債権者の同意が不要。ただし収入の条件が厳しく、返済額が高くなりやすい。
給与所得者等再生を選べる人でも、返済額の面では小規模個人再生のほうが有利なのが普通です。司法統計でも、個人再生の大半は小規模個人再生です(令和2年度は小規模個人再生が11,172件、給与所得者等再生が698件。【最新年度の数字に差し替え】)。 給与所得者等再生を検討するのは、債権者に反対されるおそれがある場合など、限られたケースです。
小規模個人再生と給与所得者等再生の違い【比較表】
2つの手続きの違いを、表にまとめました。
| 比較項目 | 小規模個人再生 | 給与所得者等再生 |
|---|---|---|
| 返済額の基準 | 最低弁済額と清算価値のうち、大きいほう | 最低弁済額・清算価値・可処分所得の2年分のうち、最も大きいもの |
| 返済額の傾向 | 少なくなりやすい | 小規模個人再生と同額か、それより高くなりやすい |
| 債権者の同意 | 必要(反対が多いと認可されない) | 不要 |
| 収入の条件 | 継続的・反復的に収入を得る見込みがあること | 給与などの定期的な収入があり、変動の幅が小さいこと |
| 主な対象 | 会社員、公務員、個人事業主、パート・アルバイトなど | 会社員、公務員など(自営業者は原則利用できない) |
| 利用者の割合 | 大多数 | ごく少数 |
両方に共通する点もあります。たとえば、住宅ローンを除く借金の総額が5,000万円以下であること、返済期間が原則3年(最長5年)であること、住宅ローン特則(住宅資金特別条項)を使ってマイホームを残せる場合があることなどです。
返済額を決める3つの基準
個人再生では、借金がいくらまで減るかを、次の3つの基準で決めます。小規模個人再生は①と②、給与所得者等再生は①〜③がすべて対象で、その中で最も大きい金額が最終的な返済額の下限になります。
①最低弁済額(借金の総額で決まる)
借金の総額に応じて、最低限返済しなければならない金額が決まっています。ここでの借金総額は、住宅ローンなど担保付きの債務のうち担保で回収できる部分などを除いた「基準債権額」です。
| 借金総額 | 最低弁済額 |
|---|---|
| 100万円未満 | 借金の全額(減額されない) |
| 100万円以上500万円以下 | 100万円 |
| 500万円超1,500万円以下 | 借金総額の5分の1 |
| 1,500万円超3,000万円以下 | 300万円 |
| 3,000万円超5,000万円以下 | 借金総額の10分の1 |
| 5,000万円超 | 個人再生はできない(自己破産などを検討) |
②清算価値(財産の価値で決まる)
清算価値とは、自己破産をした場合に処分されるであろう財産の価値のことです。
個人再生では、この金額以上を返済することが求められます(清算価値保障原則)。
実際に財産を手放す必要はありませんが、預貯金、保険の解約返戻金、車、不動産などが多いと、最低弁済額より高い金額を返済しなければならなくなります。
一般的には、財産が少なければ、最低弁済額のほうが清算価値より大きくなります。
③可処分所得の2年分(給与所得者等再生のみ)
給与所得者等再生では、さらに「可処分所得の2年分以上」を返済するというルールが加わります。
可処分所得は、簡単にいうと手取り収入から、最低限の生活に必要な費用(最低生活費)を差し引いた金額です。
最低生活費は、家族構成や住んでいる地域によって決まっています。単純な「手取り額」ではない点に注意してください。 収入が多いほど、また扶養家族が少ないほど、可処分所得は大きくなり、返済額も高くなります。
多くの場合、③が3つの基準の中で最も大きくなるため、給与所得者等再生は小規模個人再生より返済額が高くなりやすいのです。
小規模個人再生とは
小規模個人再生は、継続的に収入を得る見込みがある人が、借金を5分の1〜10分の1程度まで減らして、原則3年で返済していく手続きです。
会社員や公務員はもちろん、個人事業主やパート・アルバイトの人も利用できます。
小規模個人再生の利用条件
- このままでは借金の返済が難しくなるおそれがあること
- 住宅ローンなどを除く借金総額が5,000万円以下であること
- 継続的または反復して収入を得る見込みがあること
- 債権者の反対が多数にならないこと
最後の条件が、小規模個人再生の大きな特徴です。再生計画案に対して、反対する債権者が人数の半数以上、または債権額の過半を占めると、計画は認可されません。
なお、反対の回答をしなかった債権者は、同意したものとして扱われます。「過半数の債権者に賛成してもらう必要がある」わけではなく、「過半数に反対されなければよい」という仕組みです。
小規模個人再生のメリット・デメリット
メリット
- 返済額が少なくなりやすい(可処分所得の基準がない)
- 収入に関する条件が緩やか
デメリット
- 債権者の反対が多いと認可されない
給与所得者等再生とは
給与所得者等再生は、会社員や公務員など、給与などの定期的な収入があり、その変動が小さい人が利用できる手続きです。
小規模個人再生と同様に借金を大幅に減額できますが、返済額の基準がより厳しくなります。
給与所得者等再生の利用条件
- 小規模個人再生の条件のうち、債権者の反対に関する条件を除いたものを満たすこと
- 給与などの定期的な収入があり、その変動の幅が小さいこと
- 過去7年以内に、給与所得者等再生の再生計画を遂行した、自己破産の免責を受けた、ハードシップ免責を受けたといった事情がないこと
「変動の幅が小さい」について、法律に具体的な数字はありませんが、実務上は過去2年間の収入の変動が概ね20%以内であることが目安とされています。歩合給の割合が高い人や、残業代で年収が大きく変わる人は、この条件を満たさない場合があります。自営業者も、収入の変動が大きいため、原則として利用できません。
給与所得者等再生のメリット・デメリット
メリット
- 債権者の同意が一切不要で、反対されるおそれがない
デメリット
- 可処分所得の2年分という基準が加わり、返済額が高くなりやすい
- 収入の条件が厳しく、利用できる人が限られる
返済額はどれくらい違う?シミュレーション
借金が600万円の会社員の場合で、2つの手続きの返済額を比べてみます。数字は仕組みをわかりやすくするための仮の金額です。実際の最低生活費は家族構成や地域で決まるため、正確な金額は弁護士に確認してください。
| 項目 | ケースA:単身 | ケースB:扶養家族あり |
|---|---|---|
| 借金総額 | 600万円 | 600万円 |
| 手取り年収(仮) | 320万円 | 320万円 |
| 年間の最低生活費(仮) | 120万円 | 250万円 |
| 可処分所得(年額) | 200万円 | 70万円 |
| 可処分所得の2年分 | 400万円 | 140万円 |
| 最低弁済額(借金の5分の1) | 120万円 | 120万円 |
| 小規模個人再生の返済額 | 120万円(3年で月約3.3万円) | 120万円(3年で月約3.3万円) |
| 給与所得者等再生の返済額 | 400万円(3年で月約11万円) | 140万円(3年で月約3.9万円) |
※財産は少なく、清算価値は最低弁済額を下回るものとしています。 ケースAでは、給与所得者等再生を選ぶと返済額が3倍以上になります。ケースBのように扶養家族が多くて可処分所得が小さい場合は差が縮まりますが、それでも給与所得者等再生の返済額が小規模個人再生を下回ることはありません。
あなたはどちら?選び方のチェック
次の順番で確認すると、どちらを検討すべきかの目安になります。
- 個人事業主など、収入の変動が大きい(過去2年で変動が2割を超える)
→ 給与所得者等再生は使えないため、小規模個人再生 - 過去7年以内に、給与所得者等再生・自己破産の免責・ハードシップ免責を受けている
→ 給与所得者等再生は使えないため、小規模個人再生 - 債権者に反対されそう(借金の半分以上が1社に集中している、会社の方針で再生計画に反対する債権者がいる、など)
→ 給与所得者等再生を検討 - 上のどれにも当てはまらない
→ 返済額が少なくなりやすい小規模個人再生
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債権者に反対されたらどうなる?
小規模個人再生で反対が多数になると、再生計画は認可されません。ただし、申立てをして手続きが始まった後に、小規模個人再生から給与所得者等再生へ変更することは原則としてできません(その逆も同様です)。
そのため、手続きの種類は申立ての段階で慎重に選ぶ必要があります。反対されるおそれが強いと見込まれる場合は、最初から給与所得者等再生で申し立てることになります。
一般に、カード会社や消費者金融が再生計画に反対することは多くありません。一方で、政府系の金融機関や一部の銀行、貸金業者以外の会社からの借入がある場合など、会社の方針で再生計画に反対する債権者もいます。また、借金の半分以上が1社に集中している場合は、その1社が反対するだけで認可されなくなるおそれがあります。
もし小規模個人再生で反対され、収入の条件で給与所得者等再生も選べない場合は、自己破産を検討することになります。事前に見通しを確認し、反対されないよう交渉することが大切です。
2つの手続きに共通すること
- 住宅ローン特則が使える:条件を満たせば、住宅資金特別条項によって住宅ローンを払い続けながらマイホームを手放さずに済む場合があります。詳しくは個人再生とは?制度の特徴や、住宅を手放さずに済む条件についてをご覧ください。
- 借金総額の上限は5,000万円:住宅ローンなどを除いた借金が5,000万円を超える場合は、個人再生を利用できません。
- 返済期間は原則3年:特別な事情がある場合は、最長5年まで延ばせます。
- 清算価値保障原則:どちらの手続きでも、自己破産した場合に得られる配当額以上を返済する必要があります。
個人再生以外の方法も比較したい場合は、任意整理とは?メリットやデメリット、自己破産や個人再生との違いについてもあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 会社員は給与所得者等再生しか使えませんか?
いいえ。会社員でも小規模個人再生を選べます。実際、会社員を含めた大半の人が小規模個人再生を利用しています。
Q. 給与所得者等再生のほうが、返済額が少なくなることはありますか?
ありません。給与所得者等再生の返済額は、小規模個人再生と同じ基準に「可処分所得の2年分」が加わるため、同額かそれ以上になります。
Q. 小規模個人再生で反対されたら、あとから給与所得者等再生に変更できますか?
手続きが始まった後の変更は、原則としてできません。反対されるおそれがある場合は、申立ての段階で弁護士と相談して手続きを選びましょう。
Q. 個人事業主やフリーランスは、どちらを選べますか?
収入の変動が大きいため、給与所得者等再生は原則として使えません。継続的に収入を得る見込みがあれば、小規模個人再生を利用できます。
Q. 貯金や車があると、返済額は増えますか?
はい。財産の価値(清算価値)が最低弁済額を上回る場合は、その金額以上を返済する必要があります。財産の評価は複雑なので、専門家に確認してください。
まとめ
小規模個人再生と給与所得者等再生の違いを整理すると、次のとおりです。
| 小規模個人再生 | 給与所得者等再生 | |
|---|---|---|
| 特徴 | 返済額が少なくなりやすい | 債権者の同意が不要 |
| 返済額の基準 | 最低弁済額・清算価値 | 上記に加えて可処分所得の2年分 |
| 向いている人 | ほとんどの人 | 債権者に反対されるおそれがある会社員・公務員 |
ほとんどの人は小規模個人再生が有利ですが、債権者に反対されそうな場合は給与所得者等再生を検討します。手続きの種類は申立ての段階で決める必要があり、後から変更できません。
