交通事故で身体に障害が残ったり、統合失調症やうつ病などの精神障害になってしまい、収入が減って借金の返済ができなくなるのは、よくあることです。
障害者だからといって、借金が免除されるわけではありません。しかし、障害者でも、債務整理で借金問題を解決することは可能です。債務整理をしても、障害年金の受給資格がなくなることはありません。
この記事では、債務整理で影響するもの・しないもの、収入源別の手続きの選び方、病気や障害が原因の借金で注意することを解説します。
- 障害者でも、債務整理はできる
- 障害年金の受給権は、法律で差押えが禁止されている
- 債務整理をしても、障害年金や障害者手帳に影響しない
- 収入の状況によって、向いている手続きが変わる
債務整理で影響するもの・しないもの
| 項目 | 債務整理の影響 |
|---|---|
| 障害年金の受給 | 影響なし(任意整理・個人再生・自己破産のいずれでも、受給資格はなくならない) |
| 障害年金の差押え | 受給権は、法律で差押えが禁止されている |
| 障害者手帳 | 影響なし |
| 医療費助成・福祉サービス | 原則として、影響なし |
| 就労 | 任意整理・個人再生は影響なし。自己破産は、手続き中、一部の職業に一時的な制限がある |
| 生活保護 | 受給中は、保護費を借金の返済に充てられない |
| 信用情報 | 事故情報が登録され、一定期間、ローンやクレジットカードが使えなくなる |
障害者手帳を持っていると、医療サービスや交通機関の料金などの優遇措置を受けられますが、借金を免除する制度はありません。
収入源別:向いている手続きの選び方
どの手続きが向いているかは、収入の状況によって変わります。あくまで目安なので、最終的には、弁護士や司法書士に相談して決めましょう。
| 収入の状況 | 向いている手続き |
|---|---|
| 障害年金+仕事の収入・工賃があり、返済に回せる余力がある | 任意整理(借金が少なめの場合)、個人再生 |
| 障害年金のみで、返済に回せる余力が少ない | 個人再生、自己破産 |
| 収入がほとんどない | 自己破産(必要に応じて、生活保護も検討) |
| 家族の援助が継続的に見込める | 援助を返済計画に組み込めるか、弁護士に相談 |
任意整理の場合
任意整理は、裁判所を通さずに、弁護士や司法書士が債権者と交渉して、将来の利息をカットし、元金を3〜5年で分割して返済する手続きです。
障害年金や、仕事の収入があって、毎月の返済額を払い続けられるなら、任意整理で借金を減らせます。障害年金は借金の返済に充てることができるので、仕事ができなくなって収入が減っても、自己破産せずに済む可能性があります。
返済額の目安
将来の利息がカットされて、元金だけを返済する場合の目安です。
| 借金の額 | 60回払い(5年)の毎月の返済額 |
|---|---|
| 100万円 | 約16,700円 |
| 200万円 | 約33,300円 |
| 300万円 | 約50,000円 |
障害年金だけで生活している場合、生活費や医療費を差し引くと、毎月の返済に回せる金額は多くないかもしれません。無理のない返済計画かどうかを、事前に確認しましょう。
借金200万円の場合は、借金200万円は任意整理できる?をご覧ください。任意整理の仕組みは、任意整理とは?で解説しています。
個人再生の場合
個人再生は、裁判所を通して、借金の元金を大幅に減らし、原則3年(最長5年)で分割して返済する手続きです。継続的な収入があることが条件になります。
年金収入が中心の場合でも、継続的な収入として認められる場合があります。詳しくは、年金受給者の債務整理をご覧ください。
借金が100万円以上500万円以下の場合、最低弁済額は100万円が目安です(財産の価値によっては、これより多くなります)。任意整理で返済が難しい場合に、検討します。
個人再生の仕組みは、個人再生とは?をご覧ください。
自己破産の場合
仕事ができないほどの障害で収入がない人や、任意整理・個人再生でも返済が難しい人は、自己破産を検討します。
自己破産のデメリット
「自己破産だけは避けたい」と思う人もいますが、自己破産の主なデメリットは、次のとおりです。
- 自由財産以外の財産は、処分される
- 信用情報に事故情報が登録され、一定期間(5〜10年程度)、ローンが組めなくなる
- 官報に、住所と名前が掲載される
- 手続き中は、一部の職業(保険外交員・警備員など)に、一時的な制限がある
めぼしい財産がなければ、財産は処分されません。官報に掲載されても、一般の人が目にすることは、ほとんどありません。
※自由財産とは、自己破産しても処分しなくていい財産のことで、99万円以下の現金や、洋服などの生活必需品が該当します。
※官報とは、政府が発行する新聞のようなものです。
職業の制限については、警備員の債務整理をご覧ください。自己破産の誤解については、自己破産のデメリットをご覧ください。
障害年金は、自己破産の手続きでどう扱われる?
障害年金の受給権は、差押えが禁止されている財産です。そのため、自己破産をしても、障害年金を受け取る権利は失われません。
ただし、次の点に注意しましょう。
- 障害年金は、収入として家計収支表に記載します。裁判所や管財人が、収入や家計の状況を確認します
- 年金の振込口座にある預貯金の扱いは、状況によって異なるため、弁護士に確認しましょう
- 障害年金の申請中の人や、過去分をまとめて受け取る(遡及する)見込みがある人は、受け取る時期によって扱いが変わる可能性があるため、申立ての前に必ず弁護士に相談してください
同時廃止と管財事件の違いは、自己破産して同時廃止か管財事件のどちらになる?をご覧ください。自己破産の仕組みは、自己破産とは?で解説しています。
病気・障害が原因の借金で注意すること
躁状態などでの浪費は、裁量免責で考慮されることがある
精神障害の症状(躁状態など)が原因で、浪費やギャンブルによる借金をしてしまうことがあります。浪費は免責不許可事由のひとつですが、病気が背景にあるなどの事情は、裁量免責で考慮される可能性があります。
詳しくは、浪費が原因でも自己破産はできる?をご覧ください。
判断能力が低下していたときの契約
判断能力が著しく低下している状態で結んだ契約は、無効や取消しを主張できる可能性があります。ただし、証明が難しいことも多いため、診断書などの資料とあわせて、弁護士に相談してください。
成年後見人がいる場合
成年後見人や保佐人がついている場合は、後見人が本人に代わって、債務整理を依頼したり、手続きに同意したりします。
費用が払えないときの対処法
債務整理の費用が用意できなくても、次のような方法があります。
- 弁護士費用を、分割払いにしてもらう
- 法テラス(日本司法支援センター)の、弁護士費用の立替制度を利用する
- 生活福祉資金貸付制度を利用する(条件に注意)
生活福祉資金貸付制度を利用するときの注意
生活福祉資金貸付制度の「総合支援資金」には、債務整理に必要な経費に使える「一時生活再建費」(60万円以内)があります。
ただし、この貸付は、失業や減収で生活に困窮している人が、継続的な相談支援を受けることなどを条件としています。債務の借り換えは対象外で、審査もあります。障害年金などを受給している場合の扱いも含めて、対象になるかどうかは、お住まいの市区町村の社会福祉協議会で確認してください。
費用については、お金がなくて債務整理の弁護士費用を払えない時の対処法、任意整理の弁護士費用は分割払い可能で解説しています。
生活保護と自己破産
生活保護を受給している間は、保護費を借金の返済に充てることは、原則として認められません。生活保護を受けることを前提にするなら、自己破産が現実的な選択肢になります。
- 生活保護の申請のときは、借金があることを、きちんと伝える
- 生活保護を受給している人は、法テラスの立替金の返済が免除される場合がある
- 障害年金を受け取りながら生活保護を受ける場合は、障害年金が収入として扱われ、保護費に影響する
生活保護の基準や運用は、地域によって異なります。お住まいの福祉事務所で確認してください。
相談先
借金の悩みを、1人で抱え込まないようにしましょう。弁護士や司法書士の無料相談のほか、次のような窓口にも相談できます。
- 法テラス(日本司法支援センター)
- 弁護士会・司法書士会の無料相談
- 社会福祉協議会(生活福祉資金・日常生活の支援)
- お住まいの市区町村の、障害者相談支援事業所や、基幹相談支援センター
- 精神障害がある場合は、主治医・精神保健福祉士・精神保健福祉センター
窓口の名称は、自治体によって異なります。依頼先の選び方は、債務整理は弁護士と司法書士どっちがいい?をご覧ください。
家族が相談を手伝う場合
障害のある家族の借金を、周りの人が支えるケースもあります。
- 家族が借金を返済する義務は、原則としてありません
- 債務整理は、本人の意思で依頼するのが原則です。成年後見人がいる場合は、後見人が代理します
- 借入先が分からないときは、借入先が分からなくなった時の調べ方が参考になります
- 相談に同行したり、書類の整理を手伝ったりして、本人を支えましょう
障害年金を狙った違法業者に注意
障害年金を受け取っている人を狙って、「年金を担保にお金を貸す」という業者がいます。年金を担保にお金を貸すことは、法律で原則として禁止されており、違法なヤミ金の可能性があります。絶対に利用しないでください。詳しくは、年金受給者の債務整理をご覧ください。
障害者の借金問題Q&A
- 障害者になったら、カードローンやキャッシングは免除されますか?
- 免除されません。障害者手帳を持っていれば、医療サービスや交通機関の料金などの優遇措置を受けられますが、銀行などからの借金を免除する制度はありません。
- 債務整理したら、障害年金が貰えなくなりませんか?
- 債務整理をしても、障害年金は受け取れます。任意整理・個人再生・自己破産のいずれでも、障害年金の受給資格がなくなることはありません。
- 障害年金で借金を返済すると、何かペナルティがありますか?
- 障害年金で借金を返済しても、問題はありません。ただし、生活費や医療費を差し引いたうえで、無理のない返済額にしましょう。
- 障害年金の振込口座の預金は、差し押さえられませんか?
- 障害年金を受け取る権利そのものは、差押えが禁止されています。ただし、口座に振り込まれたあとの預金の扱いは、状況によって異なる場合があります。心配な場合は、弁護士に相談してください。
- 就労継続支援の工賃だけでも、任意整理できますか?
- 収入として認められる場合があります。ただし、毎月の返済額を払い続けられるかが条件になるため、弁護士や司法書士に相談しましょう。
- 障害年金を申請中ですが、借金があります。債務整理してもよいですか?
- 債務整理はできます。ただし、障害年金を受け取る時期によって、自己破産などでの扱いが変わる可能性があるため、申請中であることを、必ず弁護士に伝えてください。
- 家族が代わりに相談に行けますか?
- 相談は、家族が同行したり、代わりに問い合わせたりできます。ただし、債務整理の依頼は、本人の意思が必要です(成年後見人がいる場合は、後見人が代理します)。
まとめ
障害者の債務整理について、ポイントをまとめます。
- 障害者でも、債務整理はできる
- 障害年金の受給権は、差押えが禁止されており、債務整理をしても受給できる
- 収入の状況によって、任意整理・個人再生・自己破産から、向いている手続きを選ぶ
- 費用が払えなくても、分割払いや法テラスなどの方法がある
- 生活保護を受ける場合は、借金の返済ができないため、債務整理を先に検討する
借金の問題は、1人で抱え込まず、早めに相談することが大切です。まずは、弁護士や司法書士の無料相談、お住まいの地域の窓口を利用して、自分に合った方法を確認してみましょう。
