個人事業主は、自己破産と同時に、廃業するのが一般的です。
自己破産をすれば、すべての借金を帳消しにできます。しかし、生活に必要な最低限の財産以外は処分するため、事業を継続するのが難しくなります。営業車や事業用の機械を売却したあとに、再び買い揃えるのは大変です。
もっとも、自己破産したからといって、必ず廃業しなければいけないわけではありません。次の3つの影響があっても、事業を続けられる仕事(自分の体一つでできる仕事など)なら、継続できる場合があります。
- 新規の融資を受けられない
- 事業資産をほとんど処分する
- 従業員や大家との契約を解消する
この記事では、個人事業主の自己破産の手続き、費用、処分される財産、事業を続けられるケースを解説します。
- 個人事業主の自己破産は、管財事件(少額管財など)になることが多い
- 事業用の財産は処分されるが、体一つでできる仕事なら続けられる場合もある
- 税金・社会保険料は、自己破産しても免責されない
- 直前の偏頗弁済や財産の持ち出しは、免責が認められなくなるおそれがある
個人事業主の自己破産:手続きの全体像
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 相談・依頼 | 弁護士や司法書士に相談・依頼。受任通知が送られ、原則として、取立てが止まる |
| 2. 申立ての準備 | 財産・借金・事業の状況を整理し、書類を作成する |
| 3. 破産の申立て | 裁判所に申し立て、破産手続開始の決定を受ける。管財事件では、破産管財人が選ばれる |
| 4. 財産の調査・処分 | 管財人が、財産を調査し、事業用の財産を処分、売掛金を回収する |
| 5. 債権者集会 | 配当の報告などが行われる |
| 6. 免責の決定 | 裁判所が免責を許可すると、借金の支払い義務がなくなる。確定すると、復権する |
管財事件の場合、申立てから免責まで、半年〜1年程度かかるのが一般的です。事案によって異なります。
個人事業主の自己破産は、管財事件になることが多い
自己破産には、大きく分けて、「同時廃止」「少額管財」「通常の管財事件」の3種類があります。
| 同時廃止 | 少額管財 | 通常の管財事件 | |
|---|---|---|---|
| 内容 | 処分する財産がほとんどない場合の、簡易な手続き | 管財人が選ばれるが、手続きが簡略化されている | 管財人が、財産の調査・処分を行う |
| 裁判所への費用の目安 | 実費(数万円程度) | 20万円〜 | 50万円〜 |
| 個人事業主の場合 | 少ない | 多い | 負債や財産が大きい場合 |
個人事業主は、事業用の財産や、売掛金、取引先との関係などを調査する必要があるため、同時廃止にはなりにくく、少額管財(または通常の管財事件)になることが多いです。
費用の目安は、裁判所や事案によって異なります。少額管財の運用がない地域もあります。裁判所によっては、予納金の分割払いを認めてもらえる場合もあります。
同時廃止と管財事件の違いは、自己破産して同時廃止か管財事件のどちらになる?で詳しく解説しています。
処分される財産・残せる財産
事業で使用している財産も処分する
自己破産すると、所有する財産のほとんどを処分します。事業用の財産も、少しでも価値のあるものは、すべて対象です。
- 売掛金(回収されて、債権者への配当に回される)
- 事業設備・機械・工具
- 備品・什器
- 商品在庫・材料
- 事業用口座の預貯金
- 営業用の車(査定額が20万円を超える場合)
- 解約返戻金のある保険(20万円を超える場合)
- 不動産
財産ごとの扱いは、債務整理すると車はどうなる?、債務整理したら生命保険は解約しないといけない?で解説しています。
個人事業主の自由財産は?
「自由財産」とは、破産する人が生活していくうえで、最低限必要な財産として、処分されずに残せる財産のことです。
- 99万円以下の現金
- 差押禁止財産(衣服や家具など)
- 新得財産(破産手続開始後に取得した財産)
- 破産財団から放棄された財産(価値がないと判断されたもの)
- 自由財産の拡張が認められた財産(裁判所が認めたもの)
自動車や銀行預金などは、査定額や残高が20万円以下であれば、処分されずに済むことが多いとされています(裁判所の運用によって異なります)。20万円を超えても、裁判所に自由財産の拡張が認められれば、残せる場合があります。
関連:自己破産しても残せる財産(自由財産)は何がありますか?
事業を続けられるケース
自己破産後も、事業を続けられるのは、次のようなケースです。
- 設備や在庫が少なく、体一つでできる仕事(ライター・デザイナー・プログラマー・講師など)
- 許認可が不要な事業
- 事業の中心が、事業用の財産ではなく、本人の技術や労働力である
破産後に得た収入は、手元に残る
破産手続の開始後に稼いだ収入(新得財産)は、自由財産として、基本的に手元に残せます。そのため、自己破産後も、事業を続けて稼ぐことは可能です。
営業車や機械が必要な場合
営業車や機械など、事業に欠かせない財産が処分される場合でも、次のような方法を検討できます。
- 裁判所に、自由財産の拡張を申し立てる
- 管財人から、財産を買い戻す(換価額に相当するお金を支払う。親族の協力を得る場合もある)
認められるかどうかは、事案によって異なります。ローンが残っている車は、原則として、ローン会社に引き上げられます。
事業を続ける場合も、管財人の調査には協力する
事業を続ける場合でも、帳簿や収支の報告など、管財人の調査には、誠実に協力する必要があります。
事業を続けられないケース・許認可の注意
事業財産が、事業の中心になっている場合
飲食店の設備、工場の機械、在庫を扱う商売など、事業用の財産が事業の中心になっている場合は、財産の処分によって、事実上、廃業になることが多いです。
許認可が必要な事業
古物商、建設業、宅建業、警備業など、許認可が必要な事業は、破産手続の開始から復権までの間、許可の要件を満たさなくなる場合があります。事業そのものができなくなるおそれがあるため、事前に、弁護士や、許認可の窓口に確認しておきましょう。
職業の制限については、警備員の債務整理も参考になります。
従業員・取引先・大家への対応
従業員
従業員を雇っている場合は、解雇が必要になることが多いです。解雇予告手当や、未払いの給料は、優先的に支払われる債権として扱われます。未払いの給料がある場合は、国の「未払賃金立替払制度」を利用できる場合があります。
取引先
買掛金は、自己破産の対象です。取引先との関係は、手続きの開始で、大きく変わります。取引先への説明の仕方は、弁護士に相談しましょう。
事務所・店舗の大家
自己破産をしたこと自体は、賃貸借契約の解除事由にはなりません。ただし、家賃を滞納していると、契約を解除されることがあります。管財人が、契約を解除して、明渡しを行う場合もあります。詳しくは、自己破産すると賃貸(マンション・アパート)はどうなる?をご覧ください。
リース
リース契約は、解除して、物件を返却するのが一般的です。事業に必要な設備であれば、継続を前提に、リース会社と交渉できるか、弁護士に相談しましょう。
税金・社会保険料は免責されない
個人事業主は、所得税・住民税・消費税・国民健康保険料・国民年金保険料などの滞納を抱えている人が少なくありません。
税金や社会保険料は、自己破産をしても、免責されません。自己破産後も、納付する義務が残ります。滞納すると、預金や売掛金の差押えを受けるおそれがあります。
- 自己破産の前に、役所や税務署に相談して、分納や納税の猶予を検討する
- 自己破産後の事業の収支に、税金の納付を含めて考える
詳しくは、債務整理をしても滞納した税金を減額することはできないをご覧ください。
連帯保証人(家族・親族)への影響
事業用の借入で、家族や親族が連帯保証人になっている場合、自己破産すると、連帯保証人に、残りの借金の一括請求がいきます。
保証人も、債務整理を検討する必要があるかもしれません。保証人になっている人がいる場合は、事前に、保証人にも状況を説明し、一緒に弁護士に相談しましょう。
直前にやってはいけないこと
自己破産の直前に、次のような行為をすると、免責が認められなくなるおそれがあります。
- 偏頗弁済:仕入先、従業員、親族などの一部の債権者だけに、優先して返済すること
- 財産の隠匿・持ち出し:事業用の財産を隠したり、家族の名義に変えたり、不当に安く売ったりすること
- 売掛金を、特定の相手に譲渡すること
- 帳簿や書類を、捨てたり、改ざんしたりすること
- 返済のための新たな借入や、クレジットカードの現金化
「事業を続けたいから、取引先にだけは払っておこう」という行動が、偏頗弁済になる場合があります。支払いの前に、必ず、弁護士に相談してください。
自己破産以外の選択肢
任意整理
「事業そのものは黒字だが、借金の返済の負担が重い」という場合は、任意整理で、事業を続けられる可能性があります。税金は対象外ですが、リース・買掛金・事業用ローンなどは、対象にできます。詳しくは、個人事業主は債務整理・任意整理できる?をご覧ください。
個人再生
個人再生は、借金の元金を大幅に減らし、原則3年(最長5年)で分割して返済する手続きです。事業を続けながら、借金を減らせる可能性があります。
- 借金が100万円以上500万円以下なら、最低弁済額は100万円が目安
- 継続的な収入の見込みが必要
- 官報に載る
- すべての債権者が対象になるため、買掛金も整理の対象になり、取引先に影響が出る可能性がある
個人再生の仕組みは、個人再生とは?をご覧ください。
自己破産後の再スタート
復権
免責の決定が確定すると、「復権」して、破産による資格や職業の制限が解除されます。
再起業
自己破産後に、再び起業することは可能です。ただし、信用情報に事故情報が登録されている間(5〜10年程度)は、新たな融資を受けるのが難しくなります。当面は、自己資金や、現金での取引が中心になります。信用情報については、金融業界のブラックリストってどういうもの?をご覧ください。
廃業するときの届出
廃業する場合は、税務署への「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出など、各種の届出が必要になります。必要な手続きは、事業の内容によって異なるため、税務署や、各窓口に確認しましょう。
費用と相談先
個人事業主の自己破産は、同時廃止に比べて、弁護士費用や、裁判所への予納金が高くなる傾向があります。弁護士費用が払えない場合は、分割払いや、法テラスの立替制度を検討できます。
個人事業主の自己破産は、管財事件になることが多く、手続きも複雑です。弁護士に、申立て代理人として依頼するのが一般的です。依頼先の選び方は、債務整理は弁護士と司法書士どっちがいい?をご覧ください。
弁護士や司法書士の無料相談のほか、次のような窓口にも、相談できます。
- 法テラス(日本司法支援センター)
- 商工会議所・商工会の経営相談
- よろず支援拠点(国が設置している、無料の経営相談窓口)
よくある質問
個人事業主でも、同時廃止になることはありますか?
財産や事業の規模が小さい場合は、同時廃止になることもありますが、少ないです。多くの場合は、少額管財または通常の管財事件になります。
自己破産したら、必ず廃業しなければいけませんか?
必ずではありません。体一つでできる仕事など、事業用の財産に頼らない事業なら、続けられる場合があります。ただし、許認可が必要な事業は、制限を受ける場合があります。
開業届を出していないフリーランスも、同じ扱いですか?
事業の実態があれば、個人事業主と同じように扱われます。開業届の有無は、基本的に、自己破産の条件ではありません。
自己破産のあとに、事業で稼いだお金は、取られますか?
破産手続の開始後に得た収入(新得財産)は、原則として、自由財産として手元に残せます。
事業用の財産を隠したら、どうなりますか?
免責が認められなくなるおそれがあります。悪質な場合は、刑事罰の対象になる可能性もあります。必ず、すべての財産を、正直に申告してください。
税金を滞納したまま、自己破産できますか?
自己破産はできますが、税金は免責されず、納付義務が残ります。
会社の借金の連帯保証をしている場合は、どうなりますか?
会社(法人)の借金について、経営者が連帯保証をしている場合は、法人の破産と、経営者個人の破産を、同時に申し立てることが多いです。ケースごとに異なるため、弁護士に相談してください。
家族に知られずに、自己破産できますか?
連帯保証人になっている家族には、請求がいくため、知られます。また、自己破産では、同居の家族の収入や家計に関する資料が必要になる場合もあります。
まとめ
個人事業主の自己破産について、ポイントをまとめます。
- 廃業が一般的だが、体一つでできる仕事など、事業を続けられるケースもある
- 個人事業主は、管財事件(少額管財など)になることが多く、費用の目安は、少額管財で20万円〜
- 事業用の財産は処分されるが、破産後に得た収入は、手元に残せる
- 税金・社会保険料は、免責されない
- 直前の偏頗弁済や、財産の持ち出しは、免責が認められなくなるおそれがある
- 連帯保証人に、請求がいく
自己破産は、借金に苦しむ人が、再スタートを切るための制度です。事業を続けられるのか、任意整理や個人再生のほうが合うのか、まずは、弁護士の無料相談で、状況を話してみましょう。

